周術期・訪問診療の口腔ケア
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医療関係の皆様・患者様へ
「口腔内から起因する全身疾患の改善」、「癌等の手術後の感染の予防」、そして「術後の体力の早期回復」ができるようにお手伝いさせていただきます。
また通院が困難な方には、専門知識を持つ歯科衛生士を派遣しての口腔ケアも行っています。
なぜ、口の中を清潔に保つことが重要なのか?
*子供の時、「砂場で手を怪我すると傷口から細菌が入り、破傷風などの敗血症にかかることがあるので、すぐに手を洗うこと」と親から言われたことがあるかと思います。
全ての歯が重度の歯周病に罹患していると、手のひらと同じくらいの面積の創面があるのと同じ状態になります。その場合、歯ぐき内から細菌が、常時血管内に侵入する状況になります。
*ブラッシングが適切に行われていないと、歯には細菌の塊である歯垢(プラーク)や歯石が沈着します。
唾液の量は、1日に約1.5~2Lもあり、口腔内が汚れていると、唾を飲み込むたびに、毎回多量の口腔内細菌が、「咽頭や消化器官」に向かうことになります。
つまり口腔内が清掃不良であると、誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。 近年、腸内フローラが話題になっていますが、口腔内が不潔であると腸内細菌層まで影響を及ぼすことも報告されています。
口は万病の元と言われる所以です。
口腔内が清掃不良のため細菌繁殖の温床になっています。
歯周病で抜けた歯には、細菌の塊である不潔な歯石が多量に付いています。
これらが嚥下時、「咽頭、気管支、胃」に向かいます。
「歯周病と全身疾患への影響」に関しての報告
2008年に海外の研究者から抜歯などの歯科治療の数分後に、上腕静脈血に口腔内の細菌が出現することが報告されました。(1
敗血症を考察すると、腸管の粘膜疾患があれば、門脈菌血症を日常的に発症する可能性がありますが、門脈菌血症の細菌は肝臓で直ちに殺菌分解されるため肝臓以外の臓器に細菌が波及することは少ないです。
重度の耳鼻咽喉科疾患を除き、日常的に全身の血管や臓器に損傷を与える主な菌血症は、歯原性だと考えられています。
次に、動脈硬化性疾患は、
動脈の内皮に形成された粥状プラーク形成を伴う炎症性病変でありますが、そこが破壊されると血小板が集積し、血栓を生じ心筋梗塞、狭心症あるいは脳梗塞を発症することになります。
歯周病原細菌であるPorphyromonas
Gingivalisは、血管内皮細胞に侵入する能力を備えており、歯周病を有する動脈硬化症患者において、粥状プラークなどの血管部病変からDNA遺伝子が検出されています。(2 また歯周病は炎症性疾患であることから炎症性サイトカインやCRPの上昇を引き起こし、血管内皮機能にダメージを与えることが報告されています。(3、4
― 参考文献 ―
1)、 Lockhart PB. Brennan MT、Sasser HC、et al.Bacteremia associated with
toothbrushing and dental extraction Circulation 2008:117:3118-25
2)、
.Dorn BR, Dunn WA Jr, Progulske-Fox A. Invasion of human coronary artery
cells by periodontal pathogens.Infect Immun.1999;67:5792-8.
3)、 .Ridker
PM, Cushman M, Stampfer MJ, Tracy RP. Hennekens CH. Inflammation. aspirin,
and the risk of cardiovascular disease in apparently healthy men. N Engl
J Med.1997;336:973-9.
4)、 .Ridker PM, Hennekens CH, Buring JE, Rifai
N. C-reactive protein and other markers of inflammation in the prediction
of cardiovascular disease in women. N Engl J Med.2000;342:836-43.
- *Phyromonas Gingivalis以外にも動脈硬化病変からは、様々な歯周病原細菌の遺伝子が検出されています。
Yamazaki K, Ohsawa Y, Itoh H, et al. T-cell clonality to and human heat shock pro-tein 60s in patients with atherosclerosis and periodontitis. Oral Microbiol Immunol 2004;19:160-7.
- *歯周病患者の末梢血において高感度CRPが上昇し、歯周治療によって低下する
Nakajima T, Honda T, Domon H, Okui T, Kajita K, Ito H, Periodontitis-associated up-regulation of systemic inflammatory mediator level may increase the risk of coronary heart disease. J Periodont Res. 2010;45(1):116-22.
- *口腔内状態と心筋梗塞発症には関連性がある
Mattila KJ, Nieminen MS, Valtonen VV, Rasi VP, Kesaniemi YA, Syrjala SL, Jungell PS, Isoluoma M, Hietaniemi K, Jokinen MJ, Association between dental health and acute myocardial infarction. BMJ. 1989;298(6676):779-81.
- *歯周病と虚血性心疾患罹には関連性がある
Senba T, Kobayashi Y, Kaneto C, Inoue M, Toyokawa S, Suyama Y, Suzuki T, Miyano Y, Miyoshi Y. The association between self-reported periodontitis and coronary heart disease-from MY Health Up Study-.J Occup Health. 2008;50(3):283-7.
- *重度の歯周病を併発する糖尿病患者では、心疾患や腎不全などの合併症による死亡率が高まる
Saremi A,Neison RG,Tulloch-Reid M,Hanson RL, Sievers ML, Taylor GW, Shlossman
M,
Bennett PH, Genco R, Knowler WC. Periodontal disease and mortality
in type2 diabetes Care.28(1):27-32,2005.
⇒ 周術期の治療前に、口腔ケア、感染源の抜歯などを徹底的に行うことにより術後感染のリスクが軽減します
- *歯周ポケットのある歯数が多いと、肺炎死の危険性が高くなる
Awano S, Ansai T, Tanaka Y, Soh I, Akifusa S, Hamasaki T, Yoshida A, Sonoki K, Fujisawa K, Takehara T. Oral health and moetality risk from pneumonia in the elderly J Dent Res. 2008;87(4):334-9.
- *寝たきりの患者の口腔ケアを行うと誤嚥性肺炎のリスクが軽減できる
Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, Mukaiyama H, Okamoto H, Hoshiba K,
;
Oral Care Working Group. Oral care reduces pneumonia in older patients
in nursing homes. J Am Geriatr Soc. 2002;50(3):430-3.
- *歯科衛生士による口腔ケアは、発熱と肺炎を抑制できる
Adachi M, Ishihara K, Abe S, Okuda K, Ishikawa T. Effect of professional
oral health care on the elderly living in nursing homes. Oral Surg Oral
Med Oral Pathol Oral Ra-diol Endod.2002;94(2):191-5.
<要介護者に対する口腔ケアの効果>
⇒ 要介護の口腔ケアを行うことにより、誤嚥性肺炎のリスクを軽減できます。
口腔内ケアでの歯科医院との連携の利点
一概に口腔ケアといっても、範囲が広く、定義が曖昧なので下記に整理します。
歯や歯槽骨の状態を確かめるためのレントゲン診断は、歯科医院でないとできません。 細菌が凝集してできた歯垢と歯石について解説しますと、ブラッシングが適切に行われていないと、歯垢が付き、それが唾液のミネラル成分との結合で硬い歯石になります。
最初は、表面に付いたものが、歯ぐき深くに進行していきます。 深いほど硬くなります。
初期の表面の柔らかい歯垢は、ご家族や医療従事者でもできますが、歯石は硬いのでブラッシングで取ることは不可能です。
歯科衛生士が専用の器具でのみ取ることができます。
特に歯肉溝内の深い歯石を取り除くには、高度なスキルが必要になります。
歯肉縁下の歯石が残ったままで表層のブラッシングのみ行っても歯茎の上の部分を、巾着袋のように閉めるような状態になり、細菌を封じ込めることになり、逆に、病状を悪化させることもあります。
歯科では、当然のことでありますが、前々より
「口腔ケアのマニュアル、評価方法」が確立しています。
<一概に口腔ケアと言っても定義は広い!?>
「口と全身の健康」に関する報告
生物には、手足、目、耳がないことがあっても、口がない生き物は存在しません。 その理由は、生物にとって、「食べること=生きること」だからで、野生の動物は、「歯の喪失=死」に繋がります。人間の場合は、料理で柔らかい食事を摂取できるため生き永らえます。 しかし、口の機能に関係する三叉神経支配の咀嚼筋は、四肢体幹の筋肉と異なり特殊であり、嚙み合わせのバランスが崩れると、体の至る所に影響が出やすくなります。
生物の進化は、象の鼻、キリンの首に象徴されるように、口で食べ物や獲物を効率良く摂取するために、体が発達してきた側面があります。
身近な所では、赤ちゃんを観察すると、生物における「口と手足の関係」が理解できます。
赤ちゃんが最初に手を使うのは、母乳を飲む時です、お母さんのおっぱいを手でしっかり押さえます。 哺乳瓶になっても同じです。 そしてハイハイできるようになり、興味ある物を見つけると、足を使い近付いていき、手に取り、舐め回したり、口の中に入れたりして周囲の大人は、肝を冷やします。赤ちゃんは、口に物を入れるために手足を使い、口を通じて、生命を維持し、外界の情報を得ているのです。
即ち口の機能の方が、手足よりも優位にあるのです。 その証拠に、全身の筋肉の中で口の筋肉だけが、唯一、脳と直接繋がっており、しかも、口を司る三叉神経の枝が、脳神経の中で最も太いのです。
神経枝が一番大きいということはそれだけ、脳と行き来する情報量が多いことを表しており、口の機能は、体の中で、とても重要なのです。 口が機能しなくなると、脳や全身が弱り始めるのは、このような理由によると考えられています。
また、長期入院で、足の筋肉が、萎縮するように、噛めない状態が長く続くと口腔内のサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)を招きやすくなります。
― 参考文献 ―
*歯や咬合支持域の数の減少は、脳萎縮や認知症発生に相関関係がある渡邉誠.高齢者の歯と痴呆.日歯広報 2004;1316:4.
*咀嚼筋は、脳神経と直結している、かみ合わせは、体の姿勢に影響を与える
:前原潔. 歯のかみ合わせと病気.東京:産業能率大学出版部、2000.
:Sumioka
T. Systemic effects of the peripheral disturbance of the trigeminal system:influence
of the occlusal destruction in dogs. 京都府立医科大学雑誌1989:98(10):1077-1085
*咬合の改善が脳機能の活性化に有効
槙原絵理、鱒見進一ら:スプリント装着の有無がクレンチング時の脳活動に
及ぼす影響. 日顎誌,
20(1):6-10, 2008.
*咬合崩壊した者の窒息リスクは、健常者と比べると1.8倍高い文献1
Kikutani T, Tamura F, et al. Tooth
loss as risk factor for foreign-body asphyxiation in nursing-home patients.
Arch Gerontol Geriatr 2012;54(3):e431-435.
*咬合崩壊した者の低栄養リスクは、健常者の3.2倍高い文献1
Kikutani T, Yoshida M, et al. Relationship
between nutrition status and dental occlusion
in community-dwelling
frail elderly people. Geriatr Gerontol Int 2013;13(1):50-54.
*長期的な摂食機能障害は、口腔内のサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)を引き起こす
菊池武 在宅歯科医療・高齢者歯科医療の考え方/日本歯科医師会雑誌2012:65(7):31-39
*虚弱・サルコペニア予防における医科歯科連携の重要性
新概念『オーラル・フレイル』から高齢者の食力の維持・向上を目指す
Up Stream
preventive strategy for age-related sarcopenia in the elderly: Why do the
elderly fall into inadequate nutrition? 飯島 勝矢; 東京大学高齢社会総合研究機構.日本補綴歯科学会誌7(2),
92-101, 2015.
当院の特徴
*専門性の高い歯科衛生士が在籍。
*15年にわたる訪問診療の実績。
*歯周病、噛み合わせ、抗加齢学会、その他、多数学会所属、様々な角度からの健康のアドバイスを行っています。
*院内設置の歯科用CTで、顎顔面の広範囲の病状について、正確な診断が可能。
*様々な最先端治療の導入。
*専門の測定器具での「口腔内清掃状態、細菌数、炎症度合」の客観的な診断。
*世界水準の口腔機能回復治療(自由診療)も行っています。
清掃性を重視した治療
歯科治療が必要であれば、来院していただいて、短期間、集中的に行います。
なるべく早く「よく噛め、清掃性が良い」口腔内の状態にします。
口腔ケアは、通院ができないのであれば、専門の歯科衛生士を派遣して在宅での口腔ケアを行います。また希望があれば食事指導等を行い患者様の生活を観るようにもしています。
歯科治療での留意事項
→ 「患者様の病状認識と治療の困難さ」とのギャップ
→ 治療期間、経済性、保険治療の制約について
*歯科治療ですべき範囲は、とても広く、患者様により口腔内は様々です。
患者様は、口の中が観えないので、関心が薄く、歯科治療を簡単に考えておられる方が多いです。
総じて、「虫歯、歯周病、欠損」の状態を長期間放置していた方ほど、治療は難しくなり、治療期間も長く掛かります。
全顎治療の場合、丁寧に1つ1つを細かく理想的な治療をした場合は、治療期間は、通常1~2年掛かります。
1つの根の治療を終結するのに1ヵ月ほど掛かることもあります。
周術期の歯科治療は、期間が限定されますで、患者様に応じて、
「応急的な治療 > 理想的な治療」を優先しています。
*歯科治療の難しさを解説しますと「歯は体の中で、唯一上皮を貫通して存在し、常に細菌感染のリスクがある環境下で、しかも常時、噛むという壊す力が加わる過酷な環境下」での治療が求められます。 治療は、残存歯数に、正比例して大変になります。 日本だけでなく、海外の学会でも、多くの歯科医が「歯科治療の難しさを常に再認識し、新しい治療法」を模索しています。 歯科治療は、医療の中でも極めて難しく特殊な分野であります。
*医科と異なり歯科の場合、保険診療は、全ての治療の中で、一部分しか担っていません。 歯科の治療技術や材質、機材は、早いスピードで進化していますが、保険診療は、財源の問題等があり、十分に補えていない現状があります。
「先進医療、再生治療、噛み合わせ治療などの高度な技術」は、自由診療になります。
また、保険治療内では、様々な制約があり、口腔内のクリーニングは、一度に行うことができません、一回にできる歯の本数や、SRPなどの歯石を取る回数には制限があります。
被せ物を被せる時にも、一定の期間が定めてあります。
歯科治療は、以上のように様々な制約や考慮すべき事項があり、治療する際は、患者様、ご紹介の医療関係者様とは、多くのことを十分に話し合いの上、行わなければなりません。
まずは、お気軽にお問合せ下さい。
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